April 26, 2005

奇跡を待つ心

先日今年度最初の授業参観があった。

ちびの通う養護学校の授業参観は一日仕事で、
途中学校外で昼食をとってまた学校に戻ることになる。

クラスのお友達のお母さんたちと昼食を取っている時、
一人のお母さんが、
「でも、もしかしたらいつか普通に追いつけるかもしれないって思わない?」
そう言った。

そのとき、
私の脳裏に一つの風景が浮かんだ。
酷く昔のことのようにも、つい昨日のことのようにも
感じる風景。

はじめてちびすけが知的障害だとわかったとき
児童相談所の先生が、
「療育手帳の申請はどうされますか?」
そう言った。
そのとき私は頭の中が真っ白な状態で、
まともな思考能力が殆どなくなっていて…
「でも、療育手帳を貰ったら、いつか健常な子に追いついたとき
 以前療育手帳を持っていたことがハンデになりませんか?」
と、訊ね返していた。
そのときの先生の顔は今でもはっきり思い出せる。
困ったような、私を哀れむような
そんな複雑な表情で、

「お母さん、知的障害の子供が健常になることは
 まずありえません。」

ああ、そうなのかと思った。
そして次の瞬間、涙が溢れてきて止まらなくなった。
泣いてもどうにもならない。
取り乱すのは恥ずかしい。
それでも涙は止まらない。

「ごめんなさい。」

そう謝る私に先生は、

「どのお母さんでも皆さん同じですよ。」

と、言った。

信じられない。
信じたくない。
どうして私の子が?
私が何か悪いことをしたの?

ぐるぐると同じことを頭の中で繰り返しながら、
だんだんと浸透してくること…

ちびが健常になることは、けしてないのだ。

納得できなくても
悔しくても
悲しくても

それは変えることのできない事実なのだと。


「でも、もしかしたらいつか普通に追いつけるかもしれないって思わない?」

きっとそれは叶わない願い。
おきない奇跡。
それはわかっている。
それでも私は

「うん、そうだね。そう思う。」

そう答えていた。
周りのほかのお母さんたちも、やっぱりみんな首を縦に振っていた。
奇跡を待つ心は、まだ消えない。

それがいいのか悪いのかわからないけれど、

消えない。


m-25_67732 at 19:28│Comments(0)TrackBack(0)王子のこと 

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